歴代の画家を観ていると、人生のターニングポイントに差し掛かったときに自画像が描かれていることに気がつきます。
画家によって生きる環境や画風はまちまちですが、自画像を描く前後を比較すると異なっている場合がよくあります。
私も画風や何を描けば良いのか?という「私らしさ」に迷う中で、「八百万の神仏画」というテーマにいきつきました。そこでも画風に迷いはありますが、以前のような暗中模索ではなく、はっきりと目指す方向が見える中での迷いです。
平成から令和この先、私がさらに飛躍するためにも、これまでの迷いや悩みを精算する意味で自画像を描くことにしました。
野人であることは自然体で生きること
切り絵のタイトルは「野人の夢~我が魂の世界~」です。
「野人」とは私自身のことです。幼い頃から自然の中で育ち、それからこれまで自然から受けるインスピレーションに刺激を受けて創作活動をしてきています。ときには創作脳を休めるために野宿や焚き火など山林の中で過ごさないと、心身ともにまいってしまいます。
私は自然とともにあり、生かされている野人であると思っています。
我が魂の世界
私自身を構成する要素である夢や祈り、願望、性格などポジティブな面もネガティブな面もそれぞれを神仏や霊獣で表現しました。
平成最後の私自身の魂の姿を具現化したのです。
様々な要素を描き出していますが、実は最初は楽しかったのですが下絵が進むにつれて、客観的に観たときに「これは自分ではない。嘘で満ちている」と思ってしまった。
なんだか無意識のうちにきれいに描こう、格好良く描こうとしていたようです。
そこから深く内観して、下絵をさらに描いているうちに納得ができる絵になっていきました。
これが我が魂の世界である!と自信を持って言えるまでに。
ナイフを絵筆のような感覚で描く
今回の切り絵作品は制作する上で、今までとは違った方法にチャレンジしました。
一つは下絵を表面に貼ることです。
従来切り絵の下絵は反転させて本紙の裏面に貼り付けて、切り進めていきますが、今回はある切り絵師の方からのアドバイスで「表面からナイフを入れるほうが線がやわらかくなる」と聞き、それをやってみました。
結果はやっぱりナイフで切った神の断面が押さえつけられる分、紙のエッジが柔らかくなり、とても良い感じです。これからはこの方法で切り絵を作っていきます。
もう一つは、下絵の完成度を6割にとどめたことです。
これまで私が切り絵の下絵を描くときは、100%隅々まできっちりと線を描きました。そしてあとは線に沿って切るだけの状態にしていたのですが、これだと完成したときに下絵を完成させたときほどの感動はありません。どうしても「線をなぞっているだけ」という意識は否めず、線がいまいち元気が無いのです。
そこで下絵を描く中で、「この部分は頭で想像しながら切ろう」と思ったら、線は描かずに白場として残しました。
やってみた感想ですが、とても気持ちよく切ることができたことと、絵筆を使って描いているような感覚で切ることがとても楽しかったのです。
切り絵制作を終えたとき
この作品は私の持つ技術と想像力を全て出しつくした作品です。
これまで作ったことのない大きさで、制作は場所を作ることからはじめ、カッティングマットをつけたテーブルを振り回しながらの制作でした。
とても満足感のいく作品を終えて、これから新たなステージへと自信を持って進むことができます。