この展覧会には、ボスやフリューゲルに代表される奇想の絵画が半分以上を占めますが、その中に「ルーベンス」の絵があります。
なぜ、ルーベンス絵がここに展示されているだろう?
最初にそう思いましたが、ルーベンスも幻想的な絵画をいくつか残しています。
どこが奇想なのか?
それはルーベンスの絵画に、「恐れ」や「怒り」という感情を、肉体の筋肉の躍動で描き分ける手法にあるのではないでしょうか?
反逆天使と戦う大天使聖ミカエル(ペーテル・パウル・ルーベンス)
肉体と肉体がぶつかり合う戦いを描いている絵です。
聖ミカエルを中心とした天使たちは、見事な筋肉質のマッチョ体型ですが、筋肉の隆起は物静かで落ち着いている様子が伝わります。
それに対して半分野獣のような反逆天使たちの筋肉は、闘争心で隆起し、怒りと恐れに満ちています。
落ち着いて戦う天使たちと、必死に戦いながら逃げ惑う反逆天使たち、筋肉の隆起で感情を巧みに表現する手法に脱帽です。
ライオン狩り(ペーテル・パウル・ルーベンス)
目の前でものすごい格闘戦が繰り広げられています。
死に物狂いで抗う野獣と、人間との攻防がすさまじい迫力です。
肉体の表現だけでなく、カッと見開いた目の表現がとても迫力があって驚きます。
人間にとって、ライオンほど恐ろしい野獣はいません。
だから死を覚悟して、ライオンに挑んでいることがよくわかります。
人間も必死、ライオンも必死、死を覚悟した格闘を描かせたらルーベンスが一番でしょう。
カバとワニ狩り(ペーテル・パウル・ルーベンス)
こんな獰猛なカバは見たことがない!
見た瞬間に、そう思いました。
だってカバのイメージと言えば、のんびりと水に浸かっているか、大きな口を開けてアクビをするイメージしかなかったものですから。
しかし、ここに描かれているカバは、完全に獰猛な野獣です。
こんなに大きなカバやワニに襲われたら、人間なんてひとたまりもありません。
人間、カバ、ワニ、馬と、それぞれの目にそれぞれの必死の感情が宿り、それぞれの立場で物語が展開されていることがよくわかります。
1つの絵の中に、生と死の間で展開される物語がいくつもあり、これだけ迫力に満ちた物語が凝縮されている作品は珍しいのではないでしょうか。
ベルギー奇想の系譜展を観終えて…
ルーベンスの絵を観た後の作品は、現代アートに近い作品が多くなります。
私的には、ここまでの奇々怪々な怪物や人間の行いが描かれた作品がとても面白かったので、後半はサラリと観て終わりました。
マグリットなどの作品も確かに奇想ではあるけれど、それは描かれたものというよりも、アイデアの奇想であり、私の興味は特に惹かなかった。
これは単純に好みや、関心の深さの違いだと思います。
でも、全体的はとても面白い企画展だったので、満足しています。