大阪あべのハルカス美術館で行われている「カラヴァッジョ展」を観てきました。
カラヴァッジョは17世紀バロック絵画の創始者で、イタリアが誇る天才画家、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(1571-1610)。
光と闇の交錯する劇的な絵画空間、迫真的な描写の作品は自身の作品も、彼に追従した画家たちの作品もかなりのインパクトでした。
明るく神々しい作風が主流だった時代に、黒を大胆に塗ることで僅かな光を際立たせた作風は当時の人々にとって衝撃的だったとか。
これが後のバロック絵画につながっていくのですが、その狭間で大胆に挑戦し続けた画家の姿勢がよくわかる展覧会です。
私はこの展覧会を見続けるうちに、黒紙を使って物語を刻む切り絵師として創作に大きなヒントをもらいました。
黒が描く心のゆらぎ
カラヴァッジョっていうのは本名に出身地の地名を名前にしたんだ。それも面白いなぁ。
そしてこの展覧会全体を見て一番印象に残っているのは、光と黒の対比が強烈なインパクトだったこと。
切り絵を制作する私にとって、黒は線を表現するもの。しかし、それ以上に黒は闇を表現するものであり、黒は光を演出するものであり、黒は人物の心情を深く語るものだということに気づきます。
これまでの自分の切り絵の中で、黒はどういう意味を持っていたのか、どういう意味を持たせればよかったのか、自分の中でずっと問い続けながら展示された絵を観ていました。
切り絵の場合はある程度表現を単純化しないといけないという定めがあるため、物の影を黒で表現するとそのまま形がつぶれてしまう。それでは表現としてあまりにも簡素で味気ないではないか。影の描き方に工夫が必要であり、それが他の切り絵師との差別化につながると思う。
また展示されている作品を観て、単純に黒を線として表現する事にこだわるばかりでなく、面として捉えて描かなければ作品に強烈なインパクトが出すことができない、黒のスペースが人間の複雑な心情を語ってくれる。このスペースが、より深く絵を観ている人に伝えたいストーリーを語りかけることができるだろう。
リアルな人間像の描き方
展示されている絵画に描かれている人物像にも目を奪われました。特に肉体の描き方です。展示された絵画を見ていると、私が日頃目にしている現代の多くの絵画に描かれた人物像は、どれもファンタジーのように思えてしまう。つまり現実味が薄いと感じてしまうのです。なぜだろうか?描かれている現実の人物が白々しく見えてしまう。
展示された絵画に描かれた人物はどれも豊満な肉体でありながら、非常に現実的で生活感に溢れ、人間臭さを非常に感じます。指の太さ、労働で汚れた手足、額の深い皺、現代人が追い求める理想的な肉体の姿とはかけ離れているかもしれない、こんな肉体にはなりたくないと思っている姿が堂々と描かれている。それがとても情感が溢れていて非常にドラマチックなのです。現実味の薄いファンタジーのような肉体を描くよりも、このような肉体で描かれた人間の方がより親近感を持ち場面の現実味を語ってくれます。それが面白い。
私も神仏を描くときに、現実味のある肉体を描いてみたいと思いました。次回作はそれを考慮しながら挑戦しよう。
残忍な場面に漂う穏やかさ
首を切断するシーンを描いた絵画がいくつかありました。とても凄惨で殺伐とした場面ですが、それに反して首を切ろうとする人の表情はとても穏やかなのです。その対比がとても面白い。
お皿に置かれた生首。とても恐ろしい絵画であるが、生首の表情はとても静かで穏やかです。画家はどんな気持ちでこの表情を描いたんだろう。それが知りたいと思いました。
※カラヴァッジョ展
会場/
あべのハルカス美術館
大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16F
開催期間/
2019年12月26日(木)~ 2020年2月16日(日)