兵庫県西脇市にある西脇市岡之山美術館で開催していた、入江明日香さんの展覧会に行ってきました。
入江さんの作品との出合いは、いつも訪問している自宅近くのギャラリーで個展案内の葉書をもらってからです。
その個展は京都であり、実際に足を運んだのですが、圧倒的なストーリー性と描写力が持つ世界観に打ちのめされました。
西脇市岡之山美術館の印象
西脇市に行くこと自体、はじめてだったのでどんなところなのだろうとワクワクしながら、バイクを走らせていると、のどかな日本の原風景の広がる中に、ぽつんと単線の無人駅がありました。
JR加古川線「日本のへそ公園」駅。
その向かいに美術館はありました。
これまで抱いていた美術館のイメージとはかなり違って、小さくて可愛らしい美術館です。
こんなのどかな環境の中にある美術館で、新進気鋭の画家の絵を見られるって、いいなぁと思いました。
少年四天王像
最初に語りたいのは、入江さんが描いた「四天王像」です。
四天王とは、仏法を守護する持国天、増長天、広目天、多聞天の総称です。
帝釈天に仕えて、須弥山中腹で四方を守るという、もともとは古代インドの神様です。
仏像、仏画の世界では、古い時代から創作されてきた四天王ですが、その全ては仏教の普遍的な様式に沿ったもので、どれも姿は同じようなものです。
しかし、入江さんの作品は、それら歴史的な四天王像とは、イメージが異なります。
古来の像は武者姿で筋骨たくましい厳ついイメージなのに対して、純で清々しい美少年の姿で描かれていました。
でもそこに違和感を感じなかったのは、入江さんの作品に共通する「日本人らしい和の表現」があるからでしょうか。
そして、少年の姿であるがゆえに、これから何か壮大な物語が始まりそうな、そんな予感を強く感じました。
言い換えれば、四天王として成長するために旅立つ少年の姿でしょうか。
本当にこれからどんな物語が展開されるのだろうかと、いろいろな物語を想像してしまいます。
入江明日香さんの創作コンセプトに気付かされる
<天地にくらすものたち、生きとし生けるものの「共存」と「風化」に関心を寄せて、イメージ同士の境界を取り払って現れる独自の表現を一途に追求しています>
案内に書かれたメッセージを読んで、僕はとても大きな気づきをいただきました。
切り絵の下絵を考えている時に、グラフィックデザイナーだった経験が邪魔をして、素直に心のありのままに表現することが苦手です。
その悩みもあって、今はいろいろな展覧会に足を運んでおり、その甲斐もあって、感性の壁は大分取れてきました。
入江さんは創作される絵の内容だけではなくて、技術的にも従来の描き方にとらわれること無く、自由に様々な絵画技法を混ぜ合わせて、ミクスドメディアと名付けて創作されています。
<イメージの境界を無くしても良い>、そんな当たり前のことをなぜ今まで気が付かなかったのか?
とても気持ちが楽になりました。
屏風作品「江戸淡墨大桜」
この作品の世界もとても面白い。
大きな桜の樹の周りにいる人々の姿がユニークです。
その人々に対して憂いを帯びた少女の姿が印象的で、誰かを待っているのか? 何かを想っているのか? 絵がいろいろな物語を語り聞かせてくれました。
絵の前にある長椅子に腰掛けて、ゆったりと大きなこの屏風絵を眺めていると、本当に面白いです。
そして、これからも入江さんの作品展が、関西で行われることを楽しみにしつつ、美術館を後にしました。