切り絵で例えば水のような透明な物体を表現したいと思った時、どのようにすれば透明感を表現すればいいのだろうか?といつも悩みます。
私は自然にあるもの、例えば川や海などを切り絵にしたいと思ったとき、下描きの段階ではいくらでも「らしく」描くことができます。もちろん頭の中で切り絵になったときの状態をイメージしながら描いています。
しかし、実際に切ってみるとどうも想定したイメージ通りに仕上がらないということがよくありました。
どこかに間違いがあったのだろうか?
リアルに見ている視覚はかなり脳が補正しているからあてにならない
水といえば、川や水滴、水溜りなどがあるが、色や濃淡を使わずに単色で描こうとすると、なかなか難しい。先人たちが様々な描き方を開拓し、それらを参考にすれば比較的容易に描くことができるだろうが、その描いたものが自分自身の表現としてどうか?単なる模倣ではないか?と考えるとそこは最大限自分なりの工夫をして描きたい。
これで「自分なりの透明感の表現」に悩むことになります。
下描きのために川面や海面の写真を見ながら簡単にスケッチをします。それから黒一色の単色のサインペンで描いていきます。
これがペン画であれば繊細な線を重ね合わせていくことで濃淡を付けて、水面や水面から見える底を表現することが可能ですが、切り絵となると線はある程度の太さを確保しておく必要があるので「繊細な線」よりも「単純な線」で表現しなければいけません。
このやり方だと水面の波紋でなんとなく形にはなるのですが、線の強さが強調されすぎて、全体で見たときにのっぺりとした奥行きのない平面的な画面になってしまいます。水面の底や泳いでいる魚まで表現するのは難しそうです。
単純に線で追って行けば失敗するということです。
パソコンの画像調整機能を活用する
次に例えば当面の花瓶に活けた花から伸びる根っこや、水槽の中で泳ぐ金魚というモチーフならどうするか?波紋という助け舟となる線がない状態です。
一度写真を用意して、それをパソコンでモノクロに変換します。さらにコンストラストを上げて写真にメリハリを付けて、白黒の二階調になるまで調整をします。
それをいくつかの段階で画像を保存します。
二階調にすることで、自分の脳が勝手に補完している「色の濃淡」「透明の概念」が消えてしまって、違った現実が見えてきます。
ここれを参考にして線を描いていきます。
脳内の既成概念が外れているので、線を描くときも線を揺らしたり、ところどころ途切れさせたりなど、自由な発想が生まれてくるはずです。
波紋がなければ、水を通して見たときの物体のエッジがぼんやり見える状態の表現もユニークな線が生まれるのではないでしょうか。
現実という脳が勝手に保管するイメージを取り払えば、自由なものの見方ができます。それが個性的な表現の糸口になります。
これを繰り返していく内に自分なりの透明な物体の表現や、透明感の描き方が発見できると思います。
最後に線がある程度描けたら、明暗を意識して、今度は描いた線を減らしたり、太くしたりして一番明るい部分と暗い部分を大胆に描き分けていきます。
そうすることによって、画面に奥行きと立体感が自然に生まれ、より透明度がアップします。